——恐怖政治を捨て、4年連続赤字から利益2倍へ
私は事業再生の現場に立つとき、いつも確信を持ってこうお伝えしています。
「心理的安全性が、事業再生のベースになっています」
業績が低迷し、危機に瀕している組織ほど、この土台が崩れ、代わりに「恐怖」や「沈黙」が支配しているからです。
■ 「厳しさ」を履き違えた、ある企業の末路
かつて私が関わった、4年連続赤字に苦しむ企業での話です。
そこでは有名コンサルティング会社の指導のもと、「徹底した管理」が行われていました。
手順書通りの仕事を強いられ、少しでもミスをすれば反省文や始末書。あろうことか、その始末書は社内の壁に「見せしめ」として張り出されていました。
指導側はこれを「規律ある厳しさ」と呼びましたが、現場は死んでいました。
技能のあるベテランは次々と離職し、社員面談をすれば、張り詰めた糸が切れたように泣き出す者までいたのです。恐怖で支配された組織では、ミスは「隠すべきもの」となり、現場の真実は二度とトップに届かなくなります。これこそが、倒産へ向かう一番の恐怖です。
■ 心理的安全性の「正体」を再定義する
ここで、エイミー・エドモンドソン教授が提唱するマトリクスで、心理的安全性の誤解を解きたいと思います。
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ぬるま湯(Comfort Zone): 安心感はあるが、目標が低い。
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冷え切った無関心(Apathy Zone): 安心感もなく、目標も低い。ただ指示を待つだけ。
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不安(Anxiety Zone): 目標は高いが、安心感がない。※利益は出ているが疲弊した企業がここです。
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学習・成長(Learning Zone): 安心感があり、かつ目標も高い。=真の心理的安全性
事業再生で私が真っ先に目指すのは、右上の「学習・成長」の領域です。
■ トップダウンが機能する「絶対条件」
「うちはトップダウンで伸びてきた」と仰る経営者も多いでしょう。
しかし、トップダウンが「独裁」にならずに「リーダーシップ」として機能するのは、その根底に「家族のような深い信頼関係」という土壌がある場合に限られます。
関係性がズタズタに壊れた組織で、土壌を無視して強い指示だけを飛ばしても、それは「毒」にしかなりません。まずは、「何を言っても罰せられない」という安心感を取り戻すこと。このステップを飛ばして、業績のV字回復などあり得ないのです。
■ 赤字脱出、そして経常利益2倍へ
私がその現場で最初に行ったのは、この「ベース」の再構築でした。
社長と相談し、社内の改革を行いました。
「始末書の壁」という恐怖政治を廃止し、ミスを報告した者に感謝し、現場の声を経営に反映させる。当たり前の「安心」を担保しました。
会議では自由に意見を言ってもらい、対処方法も話し合いで決めました。
その結果はどうなったか。
その会社は、4年連続の赤字から見事に脱出。黒字化を達成しました。さらに今期は、経常利益が前期の2倍に達する見込みです。離職する社員もほとんどいなくなりました。
社員が恐怖に怯えるのをやめ、自ら知恵を出し合う「自走する組織」へと変貌したことが、劇的な数字となって現れたのです。
■ 結び:心理的安全性は仲良しチームのことではない。
「心理的安全性」は、単なる福利厚生ではありません。
どん底から這い上がり、持続的な高収益を叩き出すための、極めて合理的でシビアな経営戦略です。
事業再生現場では、ほとんどの場合、人の問題です。
