先日、ある中小企業の社長から切実な経営相談をいただきました。 その会社は、コロナ前までは小規模ながらも売上は順調、まさに「堅実な経営」を地で行く企業でした。しかし、感染症の拡大によって突如として商売が止まったのです。
「いずれ景気は戻るだろう」 その思いで、ゼロゼロ融資などのコロナ融資を活用し、なんとか凌いできました。しかし、コロナ禍が明けて2年。ようやく気がついたのは「数字はもう元には戻らない」という残酷な現実でした。
気がつけば、膨らんだ借入金に対し、金融機関にはリスケジュール(利払いのみの猶予)をお願いする日々。出口の見えないトンネルの中で、社長の頭を支配していたのは、次のような「目先の恐怖」でした。
1. 社長が最初に吐露する「2つの大きな不安」
事業再生の現場にいると痛いほどわかりますが、資金繰りに追いつめられた社長は、まずこの2点を確認されます。
「借入返済を止めたら、一体どんな不利益を被るのか?」 現状の売上規模では、到底返せないほどの借金。もし返済を止めてしまったら、即座に会社は倒産し、明日からの生活も立ち行かなくなるのではないか。その恐怖で夜も眠れないとおっしゃいます。
「個人のマンションはどうなってしまうのか?」 万が一、会社が返済不能になった場合、連帯保証人である社長自身の自宅はどうなるのか。家族の住まいを守る方法はあるのか。
こうした質問は、経営者として、また一人の人間として当然の反応です。私はまず、これらに丁寧に答え、不安の霧を晴らすことから始めます。しかし、実はこれらは再生における「枝葉」の議論に過ぎません。
2. コンサルタントが見据える「事業存続」への3つの視点
不安が少し落ち着いたところで、私は社長に問いかけます。 「この会社を、本当に存続させるべきか、それとも廃業させるべきか。本質的な議論をしましょう」と。私たちが事業再生のプロとして見ている視点は、主に以下の3点です。
① 事業性(稼ぐ力)があるかどうか
まず、BS(貸借対照表)の負債額は一旦脇に置きます。負債がいくらあろうと、その事業自体に「今、利益を出す力」があるか、あるいは「改善の余地」があるかを最優先で見極めます。 私たちのゴールは、社長にとってベストな選択肢を提示すること。もし、事業自体が構造的に壊れており、再生の可能性が低いと判断すれば、傷が浅いうちに「廃業」を提案するのも専門家としての誠実さだと考えています。
② バランスシートの現実的な処理
事業に継続価値があると判断した場合、初めてBSを直視します。 銀行に返済可能な額を算出し、まずは10年での完済をシミュレーションします。しかし、相談に来られる企業の多くは、10年では到底返せません。その場合、15年から20年という超長期の視点を持つか、あるいは抜本的な債務カット等のスキームが必要になります。
③ 「第二会社方式」という選択肢
「事業に利益は出せるが、過去の負債が重すぎて身動きが取れない」という場合、第二会社方式を検討します。 これは、事業の核となる部分を新会社へ譲渡し、現社長は代表を退くなどの条件のもと、負債を切り離して再出発する手法です。決して法に触れるような不適切な行為ではなく、国も認めている正当な「再生スキーム」の一つです。 (※ただし、許認可の取り直しや、大手企業との取引口座の維持など、高いハードルがあることも事実です)
3. 「枝葉」に惑わされず、進むべき「道」を決める
資金繰りに悩む社長は、どうしても「明日の支払い」という目の前の枝葉に精一杯になってしまいます。しかし、枝葉ばかりを気にしていては、木全体を救うことはできません。
私たちの仕事は、社長の不安に寄り添い、共に悩みながらも、「この会社をどう建て直していくのか?」という正常な判断を取り戻してもらうことにあります。
「返済を止めたら終わり」ではありません。そこからが本当の再スタートになることも多いのです。一人で抱え込まず、まずはあなたの会社の「事業の種」に、まだ芽吹く力があるかどうかを一緒に見極めていきませんか。
