先日、IT企業を経営する先輩とお会いした際、ちらっと教えてもらった話が忘れられない。
「うちのビジネスモデル、そろそろ転換点だと思う」
創業から十数年、ずっと黒字を出し続けてきた会社が、今期は赤字に転落しそうだという。赤字なのにボーナスを出すかどうか――まさにこの時期、役員会でその議論をしてきたばかりだと先輩は語ってくれた。
SaaS is dead、その半年後に起きたこと
「SaaS is dead(SaaSは死んだ)」という言葉がIT業界で語られ始めてから、すでに半年が経つ。象徴的なのは大手IT企業の株価だ。業績そのものは落ちていないにもかかわらず、「この先どうなるか分からない」という市場の見立てだけで、株価は半額程度にまで沈んでしまった企業がある。
そしてついに、この波は大企業だけの話ではなく、我々中小企業のすぐ身近なところまで押し寄せてきた。
先輩の会社で実際に起きていたのは、こういうことだった。これまで10人がかりで作っていた1つのソフトウェアが、今では1人がPC3台にAIを入れて作業するだけで完成してしまう。しかもAIは、人間1人分どころか3人分のスピードで答えを返してくる。かつて補助的な役割を担っていた人たちの仕事は、静かに、しかし確実に消えていった。
これが、十数年黒字を守り続けてきた社長が今直面している現実である。
次に波が来るのは「士業」
このAIによる置き換えの波は、いよいよ士業にも及んでくるだろう。定型的な調査、書類作成、情報整理――これまで専門性の一部として価値を持っていた業務の多くが、AIによって代替されつつある。
では、この時代にどう答えを出していくべきか。
一つの答えは、「人にしかできないことを始めること」だと思う。コンサルティング業務にも、人間にしかできないことが数多くある。AIに強い人材をどう育てるか。経営のノウハウをどう血肉化させ、次の世代に受け継がせるか。そうした「人材育成」という営みそのものが、これからますます価値を持つ。
人と人との間に信頼という名のフックをかけておくこと。それさえできていれば、AIがどれだけ台頭しても、揺るがない立ち位置を築くことができる。そう信じている。
思っていた以上に速いペースで、この転換点はすでにやってきている。
ステーブルコインJPYCの急伸、そしてAIエージェントとの相性
もう一つ、最近気になっている動きがある。昨年、日本で初めて認可されたステーブルコイン「JPYC」の取引量が、5月末の5億4千万円から12億円へと、約2.4倍に急増したというニュースだ。
LINEを通じてステーブルコインが使いやすくなったことも、追い風になっているのだろう。
これまで、決済手数料がネックとなって躊躇されてきた小口決済や、認知症の方が多い介護の現場でのお金のやり取りなど、既存の決済手段が抱えていた「不便」を解消する需要は、実は相当に高かったはずだ。それが今、一気に決済通貨として広がろうとしている。
すでに、お好み焼きの千房や自動販売機など、身近な現場でJPYCが使われ始めている。
そして何より注目したいのは、ステーブルコインとAIエージェントの相性の良さだ。人の判断を介さず、AIエージェントが自律的に取引や決済を完結させていく時代において、少額・高頻度・低コストで動かせるステーブルコインは、まさに相性抜群のインフラになる。
顧問先には、この動きをいち早く伝え、普及を後押ししていきたいと考えている。
黒字企業が赤字に転じ、10人分の仕事が1人とAIに置き換わる。そんな現実が、もう「他人事」ではなくなった。この転換点をどう乗りこなすか――経営者として、コンサルタントとして、これからも考え続けていきたい。
